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豊橋の中のトンガリさん vol.5 花島紀秀さん

面白いまちには面白い人が住んでいる。

豊橋市の面白い人、尖った人を紹介したい!この人突き抜けてると思える人と繋がりたい。

このコーナーはそんな思いから生まれました。

第5回は特定非営利活動法人愛知県自閉症協会・つぼみの会の副理事長であり、アーティスト・花島愛弥氏を擁する「デザインあや」スタッフでもある花島紀秀さんにお話を伺います。

■ 花島紀秀さんプロフィール

静岡県浜松市出身、現在豊橋市多米校区在住。重度の知的障がいと自閉症をもってうまれた娘・愛弥(あや)氏の創作活動をパートナーと共に支える。日本自閉症協会理事、愛知県自閉症協会理事を経て現在愛知県自閉症協会の副理事長を務める。PTA会長として多米小で発達障害の子の対応法などの学習会をブラジル人の保護者も参加できるように通訳をつけて開催するなど先駆的な取組を多数仕掛けた。日本マウンテンバイク協会認定インストラクターで多米小の自転車クラブも14年程開催。

「デザインあや」 https://www.instagram.com/teamdesign_aya/

■「デザインあや」は、僕らがやってきたユニバーサルな活動の集大成

――消しゴムはんこアート体験ワークショップが大好評ですね。

花島:おかげ様で本当に好評いただいてます。このワークショップを継続するにあたり、のんほいパーク(*1)とのんほいパーク認定アーティスト花島愛弥を応援する仲間で「デザインあや」というチームを結成しました。「デザインあや」は妻がチームリーダーとして活動していますが、これまでの活動の経験を盛り込んで、自分も共に一番力を入れている活動なので、自分のこととしても紹介させていただきます。

愛弥が認定アーティストとなっているのんほいパークほか児童クラブや、先日は蒲郡市・生命の海科学館(*2)でもワークショップを開催しました。設楽町の子どもの会、老人会や名古屋の大学病院など様々な場所に呼んでいただく機会が増え、愛弥ちゃんの絵を使ってみんなが笑顔になってくれる体験が提供できることを嬉しく思います。

このワークショップは、朝倉保奈美さんという消しゴムはんこのアーティストの方が愛弥ちゃんの個展に来てくれたことがきっかけで生まれました。彼女が「愛弥ちゃんの絵に囲まれた空間で彫りたい。」と言ってくれて。愛弥ちゃんの絵は、天地をひっくり返しても、どの方向から見ても気持ち悪くならない絵なんです。

松井守男さん(*3)が「自然物は向きがないでしょ。変な作り込みが無い絵はそうなんだよ。」と評価してくださったところですが、その特徴もはんこにとても向いていた。はんこを押すだけだから小さい子も出来るし、大人も楽しい。色も自由で、いろんなインクで押してもいいし一色でも構わない。

子どもにとっては愛弥ちゃんの絵を素材にして自由にイマジネーションを働かせて遊べるし、好きなようにストーリーを作ってもいい。ぎっちり押してもいいし余白を作ってもいい。本当にいろいろな世代が、障がいの有無にかかわらず遊ぶことができる、手前味噌ながらいいワークショップだなと思っています。

――花島愛弥さんという稀有なアーティストの才能にいつ頃から気がつかれましたか?

花島:そうですね……愛弥ちゃんは、1歳半くらいからやり始めるはずのなぐり描きを年中さんまでしなかったんです。紙とクレヨンを渡されても、ぽろんと放ってしまう。知的障害といっても色々レベルはあるわけですが、娘は本当に発達が遅くて、診断がつく前からきっと自閉症なんだろうな、と考えていました。親などの真似をすることも3歳ぐらいまで無くて。なぐり描きもしない子に、親として何をどう教えたらいいんだろうと。悩む日々を送っていました。

ところがある日、幼稚園の先生が「愛弥ちゃん、絵を描きましたよ!」と言う。どういう状況か聞いたら、「あやちゃん色のついた紙なら描きます。」そこには、暗いグレーの色画用紙にアンパンマンみたいな絵が描かれていました。

児童精神科受診でそのことを伝えると、「そうか!あやちゃん視覚過敏があったんだね!白と黒のコントラストがきつかったんだ!なるほど~」と説明を受けました。それで、あっと思って。白い紙だとあの子にとっては反射が眩しすぎるんです。目に痛くて、絵を描くところまでいけない。それがグレーの紙で解消したら、殴り書きもなくいきなり顔を描いているなんて驚きでした。

その発見から、生成りというか、クリームみのある紙を与えるようになりました。しかも、家の中でも、何が起こるかわからないので数分間すら目を離すこともできないほどの難しい子が、絵を描いているときだけは一人で、とてもご機嫌で居てくれる。ああ、これかも、これがこの子の生きる力の基礎なのかも、と思いました。

■スペシャルな伸びを期待するなら、好きなことを伸ばすしかない

花島:愛弥ちゃんの毎日は本当にハードモードです。自閉症の特徴のひとつである過敏の問題があります。苦手な音がいくつかあって、そういう音が聞こえるとそれだけで恐慌(パニック)状態になる。場所も時間も関係なく泣き叫んだり自傷してしまう。僕らも数え切れないほど失敗しました。今でもそうですが、愛弥ちゃんと出かけるときは僕も妻も常に臨戦態勢です。

外出に難しさをかかえていても、いろんな経験をさせてあげたい。本人が将来自分で人生を歩んでいくために人間らしく選択できるためにいろんな経験が必要だと思うからです。

――花島さんは、愛弥ちゃんという一人の人間の人格を本当に尊重しておられると感じます。

花島:僕、「親なきあと」みたいな話(*4)をしてるとね、親が残せるのは本人の経験だけじゃないかなと思うんですよ。

今、福祉の分野でも、本人の意思決定・選択を重視する流れになってきてくれています。ありがたいことですが、食べたことのない料理の味を想像できないみたいに、経験のないことを選択しろと言われても無理ですよね。それが知的に重い自閉症の子の現実です。

だからこそ、親が子に残してあげられる一番大きなことはたくさんの経験、その経験を通して身に付けたことだと思うんです。経験を豊かにしてあげること。何もいっぱい旅行させてあげるとか、そういうことじゃなくて、出来ることを増やしてあげること。愛弥ちゃんにとっての絵の素材となっている自然にたくさん触れる経験が、何よりも大切なことでした。

それと、自閉症の子は概してチャレンジが苦手です。「出来るぞ!」と思えなければやらない。やれないんです。だから、経験は多ければ多いほどチャレンジの土台になります。本人が生きる力をうまく発揮できるように、経験を積ませつつチャレンジしやすい環境を整えていくことが親の仕事なのかなと思います。

勉強もそうで。本人がやりたがっていること、好きなこと、没頭できることをしているときが一番脳が活性化するから、スペシャルな伸びを期待するならそこをやるのが一番効率がいい。だからうちは文字を覚えるのも絵日記でした。大好きな絵をセットにして、文は一言、テンプレートでもいいから書く。それが今でも毎日続いています。だからうちの子は重度知的障がいで3歳くらいの知能だけど、小学校四年生の漢字も読み書きできますよ。

――それはすごい! 継続は力なり、ですね。

花島:どこにも出かけないとかで、絵日記に描くことがない日もあるでしょ。そういう日は、「今日は、歯をみがきました」って書くんです。一行だけ。でも、先日愛弥ちゃんは初めて、それに続けて「きれいになりました。」って書いたんです。絵日記はじめて13年目にして初めて自分からの感想がついたのです。夫婦で「ウワッ!」ってなりました。23歳の今でも成長しています。この小さな成長でも彼女の生活のレベルを上げていくと信じています。

■学校と戦っていたわけじゃない。当然のことをしているだけ。

――花島さんは協会の理事としても活動されています。PTAでもかなり色々な改革をしたそうですね。

花島:派手にやったように見えたとは思います。校長先生と対立してしまったから。僕が会長を務めたときは、役員をやっていたほかの保護者から批難や罵倒されたこともありました。

対立した原因は学校が児童に対し暴力・虐待行為、差別的な行為をしていたことを知って、それを止めて欲しいと校長先生にお願いしたのだけれど、取り合ってもらえなかったので、現場が改善するまで行動をやめなかったからです。
PTAに参加する保護者にもいろんな思いがあるのは分かるのですが、児童優先で行動しました。今なら同じ戦い方はしないと思いますが、改善するための行動ができないならPTA会長はやってはいけないと思います。

また、PTA活動ではないですが、個別の教育支援計画、個別の指導計画といって、特別支援学級などの児童のために作る書類があります(*5)。それは学校が作るんですが、「計画の内容について保護者の意見を十分に聞いて計画を作成又は改定する」というルールなのに保護者がその内容を見せてもらえない、という状況が当時はありました。だから全ての保護者に開示してほしい、と頼みました。今では、愛知県全ての特別支援学校で、通知されるようになりました。

また、差別的で不合理なルールの撤廃を求めました。それは当たり前のことなのだけれど、学校という場所では行われていて、それによって不利益を受けたり不当な情報搾取を受ける人もいる。そういうことはやめよう、と言っただけなんです。

――子どもを学校の人質に取られているから、不満があっても何も言えない、という親御さんの話もよく聞きますが。

花島:そうですね。でも実際はそんなことはありません。子どものことを観察し、しっかり相談してくる親の子どもに先生は意図的ないじわるはしません。確かに保護者1人対学校、という構図ならあきらめてしまう保護者も多いでしょうけど、応援してくれる人、助けてくれる人はいるものです。

あとね、自分の子どものためだけに戦うんじゃないということですね。自分の子どものためだけに戦おうとすると、必ず何か問題視されます。「ああいう親の子だからあの子は問題児なんだ」とかね。僕も愛弥ちゃん一人のために抗議したわけではありません。

――花島さんの、その情熱はどこからくるものですか。子どものための無償の愛というか。

花島:僕の会長時代のPTA活動の目的•目標は、「保護者が子ども達の学校生活にもっと関心を持つ様になること」でした。親たちが関心を持たなければ子ども達が受け取る教育の質の向上は望めないからです。

PTAは前例主義なところもありますが、だからといって虐待や差別が許されるわけではないし、学校に都合のいいように運用されていいということにもなりません。何か子どもにとって不利益がある状態に気が付けたのだとしたら、「明日もその子が学校に行けば、おなじ目に遭う、大人が気づいた時はその状況が続いてきたのだろう」と対処する。それだけなのです。

――子どもの生きる力を学校が、大人が削いではいけませんね。

花島:東日本大震災の後、僕らが企画して、豊橋の高校生と被災地の高校生との交流のツアーを組んだことがあるんです。多米の自治会長さんにも協力してもらって、豊橋市の市政110周年の補助金を受けました。

そのツアーに参加してくれた雄勝地区(*6)の高校生が、「生きていくために、ぜひ隣の人を大切にしてください」と語っていました。雄勝は海の街だから、漁師さんの奥さんが、体育館に避難させようとしていた教師たちに「そんなところに逃げたら死ぬ、山に行け」って言ってくれて、そのおかげでその時小学校にいて避難した子どもたちは全員助かりました。となり町でありながら漁師町でない旧大川小で起った惨事は皆さんも記憶しているでしょう。

隣の人を大切にする、大切にされる。信頼する。その土台になるものは、大人がどういう姿を見せるかです。僕は子どもを叱りませんし、子どもの喧嘩を仲裁するときに子どもの言い分を聞いて正しさで判断することもしません。ミスジャッジする可能性はあるわけだから、自分の正しさを押し付けることはわざわざ子どもの信頼を失う行為なんです。

叱ることで子どもの行動を変えたなら、叱る人がいなければ変わらない、もっといえば、見つからないようにやるようになるということです。子どもは信頼する相手からの教えには、その相手が見ていないときでも行動をきちんと変えていきます。そういうことが教育なんだと思うし、「教育の機会の喪失は、子どもの未来がもったいない」との思いです。それは、いまも変わりません。

教育、療育を考えながらユニバーサルな人の学びを意識して愛弥と共に生活してきた現時点、最新の活動が、「デザインあや」なのです。

*1 豊橋総合動植物公園(通称 のんほいパーク)では、人の声や泣き声に過敏、人ごみが辛い、など障害等 により通常入園が困難な方を対象とした、休園日入園許可制度を設けている。花島愛弥氏は同園の第1号の認定アーティスト。

*2 「地球と生命の歴史」を、化石や隕石などの展示を通して紹介している科学館。館内には世界初のデジタル地球儀”さわれる地球”がある。

*3 豊橋市出身、武蔵野美術大学造形学部油絵科卒。フランス政府より芸術文化勲章、2003年にはレジオンドヌール勲章を受章するなど受賞歴多数。「光の画家」と呼ばれる。花島愛弥氏とは親交深く、「愛弥さんの絵は大胆でデリケート。色ではかなわない」と惜しみない賛辞を捧げた。惜しまれつつ2022年逝去。

*4 「親なきあと」問題とは障がいのある子を持つ親が「自分たちがいなくなった後、残された子がどう生きていくか」についての心配や課題のことを指す。

*5 「『個別の教育支援計画』について」(文部科学省)参照。

*6 宮城県石巻市半島部にあり硯の名産地として全国的に知られる。東日本大震災では入院患者40名全員が死亡した雄勝病院があった場所。雄勝小学校から車で約25分ほどの場所にあった旧大川小学校では津波により児童108名中74名・教員10名が亡くなる大きな犠牲が出た。

(聞き手:当法人 代表理事 村井真子)

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