面白いまちには面白い人が住んでいる。
豊橋市の面白い人、尖った人を紹介したい!この人突き抜けてると思える人と繋がりたい。
このコーナーはそんな思いから生まれました。
第2回はシライミュージック社長であり、牛丼の吉野家に「白井式」と認められるアレンジレシピの考案者であり、そして南栄町協議会の副代表として活躍される白井紀充(しらい としみつ)さんをご紹介します。
白井紀充さんプロフィール
全国から人が訪れる豊橋市南栄町の楽器店、シライミュージック社長、ドラマー。店舗徒歩30秒の場所にあった大手牛丼チェーン「吉野家」に週5で通い、アレンジレシピが公式ファンブックに「白井式」として採用された経験を持つ。2024年、南栄町協議会を発足し副代表を務める。
一度行動しないと分からないから、やっちゃう
――プロフィールが大渋滞です。
白井:僕、基本全部自分でやっちゃう人なんです。だからイベントの時も、音響も照明も司会も演者も全部ひととおり自分で出来る。手数が多いんですね。それで数々の失敗もして、2020年代に入ってからは意識して裏方のほうに回るようになりました。
出典を忘れてしまったのですが、コミュニティについて勉強していた時に読んだ本か論文かなにかで、長続きするコミュニティの条件として、「真ん中の人がプレイヤーではない」という学びがあって。ああそうかと。それで、自分で全部やるのではなくて、自分が整える方に行こうと思った。
――南栄町協議会も、ご自身が代表ではないですよね。
白井:南栄町協議会に限りませんが、まちのコミュニティにはすでに先輩経営者も住民もいる。何か若い奴が勝手に動いている、みたいな印象を持たれたくなかったんです。だから、代表は老舗の呉服屋さんである山正山﨑の先代店主である、山﨑正平さんにお願いしています。また、監事として全国的に水上ビルの存在を知らしめた黒野有一郎さんをお迎えしています。ちゃんとしている大人が一緒にやっていることで、まちの皆さんにも安心していただけるんじゃないかと考えました。
南栄町協議会について説明すると、豊橋鉄道・南栄駅を中心としたエリアの、地域の事業者の連絡網みたいなものです。南栄町はかつて「豊橋市の副都心」と呼ばれていて、南栄には発展会・振興会と2つの事業者団体があったんですね。でも、いろいろ原因はあると思うけど、結果的に今はとてもお店が少なくなってきている。なのに、その意見を集約するような、そういう団体がなかったんです。
△南栄町協議会の理事メンバー。山正山崎店舗前にて撮影。
――南栄町はかつては非常に賑わいのあるまちだったと聞いています。
白井:国道259号線の東側は戦後、陸軍の軍用地の払下げで出来たまちなんです。町自体に力があったんですよね。線路沿いに1階に店舗、2階に自宅、みたいな分譲住宅を建てて売りまくった。南栄町がですよ。それで一大商店街が出来たんです。でも一つ誤算があった。その時分譲された場所は前に道路、後ろに線路があって、縦に敷地を拡張することが難しい。今、南栄に残っている店は大抵駐車場を確保しているけれど、立地条件としては駐車場を店舗前に確保することが難しいんです。
だから、モータリゼーションの時代になって、南栄町は取り残されたようになりました。でも、それはつまり電車での移動には最適化されているともいえるでしょう? 事実、南栄エリアは「豊橋市歩いて暮らせるまち区域」にも指定されています。
僕がそもそも、この協議会構想みたいなものを考え出したのは、2018年の夏頃で。このままじゃ職場のクオリティが下がってしまうと思って、山正山崎さんの現店主、山﨑嘉大さんに相談したのが最初だったと思います。
意識して外の人の視点を入れていくことが大事
――「職場のクオリティ」?
白井:昼も夜も外食ができる、つまり食べる場所もそれが可能なだけの給料もあって、生活しやすい環境にある職場、くらいのイメージです。僕はそういうところで働きたいし、そういうところだったら会社で働いているスタッフもモチベーション高く働けるんじゃないかって。
だから飲食店がある、ということは結構僕にとっても重要なこと。2010年代って、新豊橋から愛大と南栄の運賃の差ができたり、愛大の名古屋キャンパスが出来たり、色々あって、モスバーガーやミスタードーナツなどが南栄から撤退した時期なんです。それに、店主の皆さんが高齢化してきて。それで、「やばい、このまま何もしてなかったら閉まっちゃう」みたいな焦りもありました。2019年からコロナ禍の影響でそれが加速して、今度は飲み屋さんが閉まりだした。
でも、自分の中で本当にショックだったのは、吉野家(259号線南栄店)の閉店だったんです。
――週5で通うってアルバイト以上の頻度でお店に行っています。
白井:僕は「吉野家の白井さん」ってセルフブランディングもしていました。アレンジレシピの発信は多くの人に喜んでもらえたし、お店に来てくれた東京のミュージシャンやメーカーさんたちが、「ああ、あの吉野家だ」ってわざわざ豊橋に来て牛丼を食べて帰ったりして。吉野家は全国にあるから豊橋でなくてもいいのに、「僕が通っている吉野家」って認識してくれるまでになっていた、それが崩れたことが本当にショックだった。だから外部依存はダメなんだなと。自分のアイデンティティは自分で守らないとって、あの時痛感しました。
そう思っていたところで、桜田さん(現協議会理事)が南栄に進出してきてくれて。僕と山正さんはまちの中の人間だから、外から来た桜田さんが仲間になってくれたことで、すごくいいバランスで始められたと思います。
――協議会の皆さんが作られた「南栄グルメ探訪」、大好評です。
△「南栄グルメ探訪」(通称:南栄マップ)。紙パンフレットと店舗を網羅したWEB版がある。紙パンフレットの配布場所は公式インスタグラムで確認できる。
白井:おかげ様でとても評判をいただいています。この編集・写真・デザインはCHI&MEさんにやっていただきました。CHI&MEさんは南栄町協議会が行った「南栄を食べ尽くす」というイベントに参加してくれた経緯があって。そこで「豊橋の外から来た人に南栄をまとめてPRできるものが欲しい」という話をして、お願いすることになりました。
――「南栄グルメ探訪」は、本当に丁寧に作られた制作物だという感じを受けました。
白井:こだわったのは、書く人・書かれる人・読む人が、「これなら全員納得してくれるだろう」と思えるバランスをとることです。
僕は自分でもインタビューを受けたりするので、受ける側の気持ちもわかる。一方で、書く側としてはこういう言葉を使いたいんだろうな、という気持ちも理解できる。読み手として、エッジのきいたものを読みたい反面、この言い方では誤解するかも、という懸念もあります。
僕、言葉が大好きなんですけど、伝播する文字をはじめ、言葉には本質的に下劣なものを多分に含んでいると思ってるんです。黙ってるのが本当は一番いい。言葉は口に出した瞬間にある種パブリックなものになってしまうし、誰かを傷つけたりノイズになる可能性が高い。だったらせめて美しく話したいし書きたいと思うんです。
美しく、というのは周囲の人が、それを読んだり聞いたりした人が納得してくれるということ。バランスがとれているね、考えてるね、と思ってくれること。それでも傷つく人はいるだろうと想定しつつ、最大限配慮する、ということが大事じゃないかなと思ってるんです。
――白井さんは個人のSNSでも多くのフォロワーがいらっしゃいます。
白井:そういうところに気が付いてくれているのかもしれません。
南栄マップについては協議会のメンバーが趣旨説明、取材交渉を1件ずつ回ってご協力を頂き、資金調達もして、制作はCHI&MEさんの外からの視点を入れてもらいました。中の人だけでやると、変なバイアスが掛かったりするでしょ。だから、そのあたりは桜田さんやCHI&MEさんに助けてもらって、僕はまちの中の人間として、バランス調整をすることに徹しました。
あのマップのペルソナは、愛知大学の1年生なんです。大学進学で南栄周辺に住んだ学生さん。あとは南栄にある南部中学校、栄小学校の新一年生にもこの春は配りました。そうすると親御さんも見てくれるから。
そういう意図と、紙面に限りがあるので、すべてのお店を掲載できなかった。だからWEB版ではすべてを網羅することを意識しました。それぞれのお店に関心を持ってもらったとき、より詳しい情報はお店のHPやSNSにも誘導できるようにしています。
小売店があることだけが「稼ぐまち」の証明ではない
――正直、南栄のまちにこれだけの飲食店があることは知りませんでした。
白井:僕はまちづくりをする人ではなくて、PRをする人なんです。吉野家のアレンジレシピもそうなんですが、何もないじゃん、つまらないじゃんって一蹴するのではなくて、なんとかして楽しい方向に変えるのが好きだし得意。南栄のまちにマイナスポイントがないわけではないですが、それをわかっていて、見方を変える、面白くすることができると思った。
南栄がつまらないと思うのは、たぶん、小売店が少ないからです。でも、小売店がなくても、きちんと利益を出している法人はたくさんある。大学も近いし、ここに住んでいる人もたくさんいて、祭りもあって、まちとしての稼ぐ力そのものは落ちてないんじゃないか。このまちにはまだポテンシャルがあるんじゃないか、って発想を変えるのが大事かなと。
そのなかで、鍵になるのは飲食店かなって思ったのでまずはそこからやっています。職場のクオリティをあげるためには、いい感じの外食先があって、外食することが叶うだけの給料がもらえる仕事があるということだから。
――南栄のまちのパラダイムシフトがありますね。
白井:南栄のまち自体に、「これは面白いよね」って切り口を自分たちでも見つけて、それをちゃんとPRする。すくなくとも努力する。結局、自分のことは自分でやらないといけないし、周囲にもそういう姿勢を見てもらえているなと思いますね。
(聞き手:当法人 代表理事 村井真子)
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